テナント入れ替え・用途変更で消防設備はどう変わる?オーナーと出店者向けに解説

テナント入れ替え・用途変更で消防設備はどう変わる?オーナーと出店者向けに解説

「事務所として貸していたフロアに、飲食店が入ることになった」「空き店舗を借りてクリニックやデイサービスを開きたい」——テナントの入れ替えや用途の変更は、建物の消防設備を見直すきっかけになります。消防法では、建物の用途(どんな使い方をしているか)によって、必要な設備や点検・報告のルールが決まるためです。

ところが、この「用途が変わる」ことの影響は見落とされがちです。内装工事が終わってから設備の不足がわかると、工事のやり直しや開業日の延期につながるおそれがあります。影響は入居するテナントの区画だけでなく、建物全体に及ぶこともあります。

静岡・山梨で消防設備の点検・工事と届出をサポートしているニッセー防災が、用途変更で消防設備がどう変わるのか、何をいつ確認すればよいのかを、ビルのオーナー様と出店を検討している方に向けて整理します。

テナントの入れ替え・用途変更をご検討中の方へ。
必要な消防設備の確認から工事・届出まで、ニッセー防災にご相談ください。

お電話でのお問い合わせはこちら 0120-271-109
目次

なぜテナントが変わると消防設備が変わるのか

消防法では、用途ごとにグループ分けした「消防法施工例 別表第一」があり、そのグループごとにつけるべき設備が決まっています。

たとえば、飲食店は「(3)項ロ」、アパレルなどの小売店は「(4)項」、オフィスは「(15)項」といったように細かく分かれています。そのため、建物の全体の広さがまったく同じであっても、使われ方のグループが違えば、用意しなければならない消防設備も大きく変わってきます。(参考:消防法施行令 別表第一|e-Gov 法令検索)

さらに、「消防法施工例 別表第一」の用途は大きく2つに分かれます。

  • 特定防火対象物…飲食店・物販店・ホテル・病院・診療所・福祉施設など、不特定多数の人や避難に配慮が必要な人が利用する用途
  • それ以外(非特定防火対象物)…事務所・工場・倉庫・共同住宅など

特定防火対象物は設備の基準が厳しいだけでなく、消防用設備等の点検結果を消防署へ報告する頻度が1年に1回(非特定防火対象物は3年に1回)になるなど、維持管理のルールも変わります。

事務所ビルに飲食店が入ると「(16)項イ」になることがある

一つの建物に複数の用途が入っているものを「複合用途防火対象物」といい、別表第一の(16)項にあたります。このうち、一部に飲食店・物販店・診療所・福祉施設などの特定用途が含まれるものが(16)項イで、これは特定防火対象物として扱われます。

オフィス(事務所)しか入っていなかったビルに飲食店が1軒でも入ると、消防法上の建物の扱いが「普通のビル」から「火災リスクが高いビル(複合用途)」へ変わります。

その結果、ビル全体に対して火災報知器や誘導灯などを設置するルールが一気に厳しくなり、新しく入る飲食店だけでなく、他の事務所フロアや階段などの共用部分にまで設備の追加工事が必要になる可能性があります。

ただし、特定用途の部分がごく小さい場合は、消防庁の通知にもとづいて、建物全体を主たる用途(この例では事務所)として扱うことがあります。主たる用途の床面積が延べ面積の90%以上で、ほかの用途の部分が300㎡未満であることなどが目安で、宿泊・入所系の用途などはこの扱いの対象外です。どちらに当たるかは所轄の消防本部の判断になるため、変更前に確認しておくことが大切です。

よくある入れ替えパターンと変わりやすい点

代表的な入れ替えのパターンと、見直しが必要になりやすい点をまとめました。実際に何が必要になるかは、建物の延べ面積・階数・階段の数・無窓階(避難や消火活動に有効な窓が少ない階)かどうか・収容人員などで変わります。

入れ替えの例用途区分の変化(目安)見直しが必要になりやすい点
事務所ビルの一室に飲食店が入る(15)項 → (16)項イ建物全体の自動火災報知設備(延べ面積300㎡以上)、消火器、防火管理者、点検報告の頻度(1年に1回へ)
物販店の跡に飲食店が入る(4)項 → (3)項ロ火を使う調理設備がある場合の消火器(面積にかかわらず原則必要)、火を使用する設備の届出(条例)
事務所を入院設備のないクリニックにする(15)項 → (6)項イ、または(16)項イ特定防火対象物としての基準、自動火災報知設備(延べ面積300㎡以上など)、誘導灯
店舗・事務所を通所の福祉施設(デイサービス等)にする→ (6)項ハ、または(16)項イ自動火災報知設備(延べ面積300㎡以上など)、防火管理者、点検報告の頻度
入居・宿泊を伴う福祉施設(グループホーム等)にする→ (6)項ロなど面積にかかわらず自動火災報知設備が必要になる区分がある。スプリンクラー設備など、ほかの設備も要確認
3階以上や地下に飲食店・店舗が入る(屋内階段が1つ)→ 特定一階段等防火対象物にあたる場合あり面積にかかわらず自動火災報知設備、有資格者による点検、防火対象物点検(収容人員の条件あり)

表の数字は消防法施行令の原則です。福祉施設は入居・宿泊の有無や利用者の状態で区分が細かく分かれます。

既存の建物に「今の基準」はどこまで求められる?

「建物が古いから、昔の基準のままでいいのでは」と考える方もいますが、用途変更では注意が必要です。

原則:既存の設備は従前の基準のままでよい(消防法第17条の2の5・第17条の3)

基準が改正されたときに既にある建物(工事中を含む)の消防用設備等は、原則として改正前の基準のままでよいとされています(消防法 第17条の2の5)。また、用途を変更したことで変更後の基準に合わなくなる場合も、原則として変更前の用途の基準を適用するとしています(消防法 第17条の3)。

例外:次の場合は、変更後(現行)の基準に合わせる必要がある

ただし、この原則には大きな例外があります。テナントの入れ替えで特に関係するのは次の点です。

  1. 変更後の用途が特定防火対象物になる場合…事務所から飲食店・物販店・診療所・福祉施設などへの変更は、消防用設備等を現行の基準に合わせる必要があります(消防法第17条の3第2項第4号)
  2. 常に現行基準が求められる設備…消火器などの消火器具、避難器具、誘導灯・誘導標識、漏電火災警報器、非常警報器具・非常警報設備、特定防火対象物などに設ける自動火災報知設備などは、そもそも「従前の基準のまま」の対象外です(消防法第17条の2の5第1項・消防法施行令第34条)
  3. 用途変更の後に大きな工事をする場合…増築・改築の床面積の合計が1,000㎡以上、または元の延べ面積の2分の1以上になる場合や、主要構造部である壁の過半の修繕・模様替えをする場合(消防法施行令第34条の2・第34条の3)
  4. 変更前の時点で基準に違反していた場合…もともと必要な設備が設置されていなかったなど、違反状態だった設備にはこの原則が適用されません

事務所から飲食店・店舗・クリニック・福祉施設への用途変更は、変更後が特定防火対象物になるため、「古い建物だから今の基準は関係ない」とはなりません。ほかにも経過措置や特例があるため、個別の判断は所轄の消防署にご確認ください。

3階以上や地下に店舗が入るときの注意点——「特定一階段等防火対象物」

テナントの入れ替えで特に注意したいのが、特定一階段等防火対象物です。飲食店・物販店・診療所・福祉施設などの特定用途の部分が、避難階(通常は1階)以外の階——具体的には3階以上の階や地階——にあり、その階から地上へ直通する階段が1つしかない建物を指します(屋外階段や、避難上有効な構造の階段がある場合は扱いが変わります)。

避難経路が限られることから、次のような上乗せのルールがあります。

  1. 延べ面積にかかわらず、自動火災報知設備の設置が必要(消防法施行令第21条第1項第7号)。階段には感知器をより密に設ける基準もあります
  2. 消防用設備等の点検は、延べ面積にかかわらず消防設備士などの有資格者が行う必要がある(消防法施行令第36条第2項第3号)
  3. 消防用設備等を設置したときは、消防署へ届け出て検査を受ける必要がある(消防法施行令第35条第1項第4号)
  4. 防火管理者を置く必要がある規模(収容人員の条件あり)であれば、防火対象物点検の対象になる(消防法施行令第4条の2の2第2号)

事務所だけだった3階建てビルの3階に飲食店が入る、といったケースで該当することがあります。オーナー様は、テナント募集の段階から階段の数と「どの階にどの業種を入れるか」を意識しておくと安心です。

テナントが小さくても「建物全体の延べ面積」で判断される設備がある

複合用途の建物では、原則として用途ごとの部分をそれぞれ一つの建物とみなして、設備の要否を判断します(消防法施行令第9条)。そのため「飲食店の区画は50㎡しかないから、建物には関係ない」と考えがちです。

ところが、一部の設備はこの原則の例外で、建物全体の延べ面積で判断されます。代表的なのが自動火災報知設備で、(16)項イの建物は延べ面積300㎡以上で建物全体に設置が必要になります(消防法施行令第21条第1項第3号)。前の章の特定一階段等防火対象物の基準も、建物全体で判断される例外の一つです。

つまり、小さな飲食店が1軒入っただけで、ほかの事務所フロアや共用部を含む建物全体に感知器や受信機が必要になることがあります。出店者の区画だけの話ではないため、オーナー様とテナント様の双方で早めに情報を共有しておくことが大切です。ただし、テナントの区画がごく小さい場合は、前の章で説明した「主たる用途として扱う」特例により、扱いが変わることがあります。

変更後の用途で入力して、必要な設備の目安をつかむ

「うちの建物はどうなるのか」をざっくり知りたいときは、ニッセー防災の無料ツール「消防設備 かんたん自動診断」が使えます。階数や延べ面積、フロアごとの用途、階段の数などを入力すると、法令で設置が必要になる消防設備と、点検・届出などの義務の目安が表示されます。登録は不要です。

ただし、このツールは既存の建物に対する「従前の基準のままでよい」という扱い(消防法第17条の2の5・第17条の3)や、所轄消防本部ごとの運用、特例などは判定に含んでいません。そのため用途変更の検討では、変更後の用途で入力するのがおすすめです。「現行の基準だと、どの設備が必要になりうるか」の目安がわかり、所轄の消防署や専門業者に相談するときの下調べになります。

テナントが変わると設備はどうなる?
変更後の用途で入力して目安を確認

無料・登録不要 消防設備かんたん自動診断|建物の階数と使い方を入力するだけで、必要な消防設備がその場でわかります
無料・登録不要 消防設備かんたん自動診断|建物の階数と使い方を入力するだけで、必要な消防設備がその場でわかります

手続きの流れ——内装工事の前に所轄消防署へ相談を

大切なのは、内装工事の契約・着工より前に、図面を持って所轄の消防署へ相談することです。工事の後で設備の不足や配置の不備が見つかると、やり直しの費用と時間がかかります。

  • 物件・テナントを決める段階…変更後の用途、入居する階、建物全体の延べ面積、階段の数を整理する。消防設備 かんたん自動診断で、変更後の用途を入れたときの必要な設備の目安をつかんでおくと、相談がスムーズです
  • 内装工事の前…平面図などの図面をもとに所轄の消防署へ事前相談。必要な設備と、工事前に必要な届出を確認する
  • 設備工事の前…自動火災報知設備などの工事は、甲種消防設備士が工事着手の10日前までに消防署へ届け出ます(着工届・消防法第17条の14)
  • 設備工事の後…一定の建物では、消防用設備等を設置したら工事完了から4日以内に届け出て、消防署の検査を受けます(消防法第17条の3の2・消防法施行規則第31条の3)
  • 使用開始の前…防火対象物使用開始届出書などの届出(下記)、防火管理者の選任・消防計画の届出(収容人員が一定以上の場合)

使用開始届や、内装工事・間仕切り変更の計画に関する届出、火を使用する設備の届出などは、市町村(消防本部)ごとの火災予防条例で定められており、名称・対象・提出期限は地域で異なります。たとえば浜松市では、防火対象物使用開始届出は使用開始日の7日前までと案内されています。「前の物件ではこうだった」が通用しないことがあるため、必ず所轄の消防署で確認してください。

飲食店の開業に必要な届出は、飲食店開業の消防手続きをまとめた記事で詳しく解説しています。

建築基準法の「用途変更の確認申請」は別の手続き

消防の手続きとは別に、建築基準法の手続きが必要になることもあります。建物の用途を変更して、飲食店・物販店(ごく小さなものを除く)・病院・診療所(入院設備のあるもの)・老人福祉施設や一部の障がい福祉サービス事業所などの福祉施設(法令上の「児童福祉施設等」)といった「特殊建築物」とする場合で、その用途に使う部分の床面積の合計が200㎡を超えるときは、原則として建築確認の申請が必要です(建築基準法第87条・第6条第1項第1号)。ホテルから旅館への変更など、政令で定める類似の用途どうしの変更は除かれます。

こちらは建築士や特定行政庁(建築確認を担当する行政)の領域で、消防署への相談とは別に確認が必要です。

オーナーとテナント、工事や費用の分担はどうなる?

消防法では、建物の所有者・管理者・占有者をまとめて「関係者」と呼び、消防用設備等の設置・維持などの義務を課しています(消防法第17条ほか)。オーナー様とテナント様のどちらが工事を行い、費用をどう分担するかは、法律で一律に決まるものではなく、賃貸借契約や当事者間の取り決め次第です。

特に、建物全体にかかわる自動火災報知設備の受信機や共用部の感知器と、テナント区画内の感知器・誘導灯・消火器では、分担の考え方が分かれやすいところです。出店が決まってから揉めないよう、次の点を契約前に確認しておくことをおすすめします。

  • 用途が変わることで建物全体に必要になる工事があるか、その費用をどちらが負担するか
  • テナント区画内の設備工事と、内装工事との段取り(誰が業者を手配するか)
  • 開業後の点検・報告を、建物全体でまとめて行うか、区画ごとに行うか

用途変更は「契約前・工事前」の相談が近道です

ポイントをまとめると次のとおりです。

  • 変更後が特定防火対象物になる場合は、原則として現行の基準に合わせる必要がある
  • 小さな区画でも、建物全体の延べ面積で判断される設備がある
  • 3階以上や地下の店舗で屋内階段が1つの建物は、特に基準が厳しくなる
  • 届出の名称・期限は地域の火災予防条例で異なる。内装工事の前に所轄の消防署へ相談を

ニッセー防災は、静岡県(東部・伊豆・静岡市、2026年5月からは浜松支店で西部も)、山梨県全域、神奈川県西部に対応する創業50年以上の消防設備会社です。現場スタッフは全員が国家資格の保有者で、図面にもとづく現地調査から、必要な設備の工事、開業後の点検、消防署への報告まですべて自社で対応しています。

また、静岡・山梨県内初の行政書士事務所併設型の防災設備業者として、届出書類の作成はニッセー防災、官公署への提出手続きは併設の行政書士事務所と連携して進められます。行政書士(消防行政手続き)のページもあわせてご覧ください。

「この物件に、この業種を入れて大丈夫か」という段階のご相談で構いません。現地調査とお見積りは無料です。

この記事の監修者

土谷 拓也(ニッセー防災行政書士事務所 代表行政書士)

静岡県行政書士会所属(登録番号 第26171501号)。行政書士・消防設備士全類(甲種特類・1〜5類、乙種6・7類)・第二種電気工事士・甲種防火管理者。

慶應義塾大学商学部を卒業後、森永製菓株式会社で法人営業を担当。2018年に消防設備業界へ転身し、同年に消防設備士全8類と電気工事士の資格を取得。2020年ニッセー防災株式会社に入社し、2026年にニッセー防災行政書士事務所を開設。消防設備と消防行政手続きの両面から、建物の防火安全をサポートしている。

行政書士サービスの内容はこちら

目次